皆さま、こんにちは。大手航空会社で10年間、CAとして勤務しておりましたSAKURAです。
機内で様々なお客様と接していると、時折、不思議な行動をとられている方に目がとまることがあります。
今回は、羽田から地方へと向かう穏やかな機内で、私たちCAが「非常用設備デモンストレーション」を行っていた際の、ある出来事をご紹介します。
デモンストレーションを食い入るように見つめ、上空に達してからも機内でこっそり体を動かしていた一人の若い男性。
一見すると少し不審にも思えた彼の行動の裏に隠されていた、思いがけない「ある理由」とは。
機内で食い入るように見つめる「熱い視線」
それは、羽田から地方へと向かう国内線での出来事でした。
その便では、離陸前にお客様にご案内する「非常用設備案内」を、モニター映像ではなく、私たちCAが客席の前方に立ち「デモンストレーション」で実施することになっていました。
デモンストレーションが始まると、機内の真ん中付近にお座りだった一人の若い男性が、食い入るように熱心に注目してくださっていることに気づきました。
機内には飛行機ファンのお客様もいらっしゃることがあるため、「きっと飛行機がお好きなのかな」と思いながら、私はデモンストレーションを続けていました。
しかし、その男性はただじっと見ているだけではありません。
よく見ると、座席の隙間からこっそりとモゾモゾ体を動かしている様子がうかがえたのです。
上空に達してからも、CAが通りかかると動きを止め、通り過ぎるとまた密かに体を動かしていらっしゃいます。
私たちCAは「いったい、何をされているのだろう……」と、少し不審に思いながらも注視していました。
テーブルの上に開かれた「一冊のノート」
その後、男性がお手洗いに離席された際、テーブルの上に大きく開かれた一冊のノートが目に入りました。
そこには機内アナウンスの言葉がびっしりとメモされており、一部に「?」と書かれていたのです。
「男性が密かに体を動かしていたのは、デモンストレーションやアナウンスを練習していたからだったのか……」
私たちは、ようやく謎が解けたことにほっとしました。
プライベートなノートを見てしまった手前、声をかけるべきか迷いつつ、何かできることはないかを考えていたその時です。
席に戻られ、再び体を動かし練習されていた男性と、今度はバッチリ目が合ってしまったのです。
男性は恥ずかしそうに赤面し、気まずい空気が流れるなか、意を決したようにこう仰いました。
「実は僕、CAを目指して勉強中なんです。どうしても聞き取れなかったアナウンスの一部を教えていただけないでしょうか」
予想していたものと少し違っていたお申し出に驚きながらも、男性のまっすぐな情熱に触れ、私はとても温かい気持ちになりました。
夢に向かって進む姿が教えてくれたこと
私は、聞き取れなかったアナウンスの言葉をメモに書き起こし、応援のメッセージも添えてお渡ししました。
男性は「大切にします!」と嬉しそうにされ、何度もメモとメッセージを見返してくださっていました。
男性の希望に満ちた姿に、CAを目指して奮闘していた頃の初心を思い出し、つい淡々とこなしてしまいがちなアナウンス一つにも、心を込めて向き合おうと背筋が伸びる思いがしました。
表面的な姿の奥にある「一人ひとりの物語」
最初は、不審にさえ思ってしまった男性の行動。
しかしその裏にあったのは、未来の夢に向かって真っ直ぐに努力する、どこまでも純粋な姿でした。
機内で出会うお客様の背景には、それぞれの物語や思いが存在します。
表面上の行動だけで判断するのではなく、一人ひとりのお客様の想いに寄り添う大切さに、改めて気づかされた出来事でした。
ライター:SAKURA * 心を読む元国際線CA
日系大手航空会社にて10年間、客室乗務員(CA)として勤務。国内線・国際線を経験し、多種多様なお客様と接する中で「感情を読み解く力」を磨く。客室責任者としてVIP対応や後輩育成に携わる傍ら、社内の人材教育やグループ会社での業務にも携わり、多角的な視点から接客のあり方を見つめてきた。
現在は、その鋭い洞察力を活かし、言葉だけでない、「心理的・物理的アプローチによるクレーム回避術」を発信するライターとして活動中。国内線での細やかな気配りから国際線での難しい状況判断まで、現場での実体験に基づいた「心に届く接客のヒント」を言語化し、接客業にとどまらず、人と人とがよりよい関係を築けるサポートをしている。