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2026年7月22日

柄本佑×渡辺謙「木挽町のあだ討ち」は新感覚の謎解きエンタメ、ミステリーの女王・名取裕子も太鼓判

柄本佑が主演を務め、渡辺謙らが共演した映画「木挽町のあだ討ち」の見放題最速配信が、本日7月22日にJ:COM STREAMでスタート。永井紗耶子の小説をもとにした本作は、ある雪の晩に芝居小屋・森田座のすぐそばで美しい若衆・伊納菊之助が父の仇討ちを成し遂げたことから始まるミステリーだ。

柄本が事件の真相に迫っていく加瀬総一郎を演じ、渡辺が森田座で謀略をめぐらせる立作者・篠田金治に扮した。長尾謙杜が菊之助、北村一輝が仇討ちされる無法者の博徒・作兵衛に扮し、瀬戸康史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、冨家ノリマサ、野村周平、高橋和也、正名僕蔵、本田博太郎、石橋蓮司、沢口靖子もキャストに名を連ねる。

本作の魅力は、江戸時代という時代設定にもかかわらず、まるで現代ミステリーを観ているかのような“新しさ”。この特集では、よしひろまさみちのレビューで「木挽町のあだ討ち」の見どころを紐解いていく。さらに数々のサスペンス作品に出演し、“ミステリーの女王”との呼び声が高い俳優の名取裕子に本作の感想を語ってもらった。

文 / よしひろまさみち(レビュー)、尾崎南(インタビュー)

「木挽町のあだ討ち」メインビジュアル

「木挽町のあだ討ち」メインビジュアル

「木挽町のあだ討ち」

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よしひろまさみちレビュー

まるで現代ミステリー⁉

時代劇と聞いて想像するのは、権力側の圧力に苦しむ人々を助ける人情物語に、悪を成敗する正義の味方の登場、ラストはド派手な大立ち回り……とお約束の展開というイメージだろう。これまで数多く作られてきた時代劇はそのお約束にのっとって描かれてきたし、むしろお決まりの展開だからこそ安心して楽しめるエンターテインメントの定番として親しまれてきた。が、衣裳やセットはもちろん、乗馬や殺陣などの役者に求められる特殊技能の継承が難しくなり、日本に限らず全世界的に歴史ものは縮小傾向にあるのが現実であり、時代劇ファンにはつらい状況の昨今。何度も映像化された名作の知名度があったり、よほどのオリジナリティがない限り、映画になることは少なくなっている。そんななか、「新感覚の時代劇」と評判になったのが「木挽町のあだ討ち」だ。公開初日から3日間で15万人以上を動員。公開約2か月半で73万人を動員するヒットを記録した。これがなぜ「新しい」のか。それはこれまでの時代劇にあったお約束的要素はほぼ全て入っている安定感があるのにもかかわらず、物語の構成は非常にトリッキーで、現代劇のミステリーを観ているような感覚になるからだ。

「木挽町のあだ討ち」場面写真。柄本佑演じる加瀬総一郎

「木挽町のあだ討ち」場面写真。柄本佑演じる加瀬総一郎

ある雪の夜、歌舞伎の芝居小屋「森田座」のすぐそばで起きた、若侍・伊納菊之助(長尾謙杜)による見事な仇討ち事件。森田座で行われていた芝居の終演にぴったりあわせ、数百にもなる観客がその現場の証人となるところから物語はスタート。しんしんと降り積もる真っ白な雪と、そこに女形の真っ赤な衣裳が鮮やかに映え、観ている者を事件の目撃者となる劇中の観客たちと同じように江戸のバックステージへと一瞬で引きこんでいく。つかみはOK。だが、本作のすごさはその後。その事件から1年半後、田舎侍の加瀬総一郎(柄本佑)が「あの仇討ちの顛末を知りたい」と森田座へ聞き込みに訪れ、彼が芝居小屋関係者のふところにするりと入って聞き込みを始める。もしイメージ通りの時代劇だったら、総一郎は名探偵ポワロか金田一耕助のような頭脳を持ちつつ、剣術にも長けて敵の密偵をバッサバサ……となりそうなもの。ところが、本作にはチャンバラはおろか、ご都合主義的な天才のひらめきもなく、総一郎はただひたすらに証言を積み重ねて真相に迫っていくのだ。この緊迫感は真相が明らかになっていく後半部までずっと物語を支配し、次にどのような証言がとれ、どのように伏線がつながっていくのか、目が離せなくなる。

「木挽町のあだ討ち」場面写真。長尾謙杜演じる伊納菊之助

「木挽町のあだ討ち」場面写真。長尾謙杜演じる伊納菊之助

「木挽町のあだ討ち」場面写真。北村一輝演じる作兵衛

「木挽町のあだ討ち」場面写真。北村一輝演じる作兵衛

ネタバレとなるために詳細は避けるが、真相にまつわるトリックも江戸時代でなければ絶対に成立しない独自性がある。現代劇のようなDNA鑑定や防犯カメラなどの科学的アプローチは存在しないばかりか、戸籍制度が存在しないからこそ成立する「あること」も活用。そして何より、「芝居小屋」が物語の舞台であるということも、二重三重の意味がある。近松門左衛門が提唱した「虚実皮膜」(事実と虚構の境にこそ人々の心を打つものが存在する、という意味の芸術論)。本作はまさにその精神をトリックへと昇華させ、江戸社会に息づく文化、闇をバランスよくロジカルなミステリーへと落とし込むことに成功したといえる。

「木挽町のあだ討ち」場面写真。渡辺謙演じる篠田金治

「木挽町のあだ討ち」場面写真。渡辺謙演じる篠田金治

知的好奇心が揺さぶられる謎解き

最大の見所は謎解きのスタイルだ。観るものを引きつけるミステリージャンルの傑作群はさまざま存在するが、本作は人気シリーズ「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」のような倒叙スタイルと“伏線回収の美学”を併せ持っている。なにせこの物語、事件の犯人自体は冒頭で明かされているため、事件の真相といってもなんのことやら、というところから始まっている。これは「古畑~」をはじめとする傑作群でも使われてきた手法であり、観ている者が何に熱中するかといえば、誰が何を隠しているのか分からない中でセリフのひとつひとつが鍵になっていく謎解きと、そこにまつわるあらゆる辻褄合わせで知的好奇心が揺さぶられることだ。よもや倒叙ミステリーのテンポ感を江戸時代を舞台に実現できるとは、という意外性も、本作が劇場公開時にヒットを記録した理由の一つだろう。

「木挽町のあだ討ち」場面写真

「木挽町のあだ討ち」場面写真

本作においては、まず冒頭で「菊之助が父親の仇である作兵衛(北村一輝)を討ち取った」という事実を観客に提示。総一郎が木挽町にやってくる事件の1年半後には、町中がそれを美談として語り継いでいた。ところが総一郎が、木戸芸者の一八(瀬戸康史)や立師の相良与三郎(滝藤賢一)、衣裳方の芳澤ほたる(高橋和也)ら、現場にいた目撃者たちへ聞き取りを重ねていくうちに、完璧に見えた美談にわずかな歪みが見え隠れし始める。総一郎が仇討ちの闇に踏み込む、重厚なミステリーが展開していくのだ。

総一郎の聞き込みのテンポ感は実に現代的で軽妙であることもポイント。全体的には江戸言葉のセリフではあるものの、飄々とした総一郎につられ、ちょっとしたリアクションで出てくるセリフは現代言葉だったりするため、堅苦しさがない。そしてその会話劇の中に、少しずつ投下されていく伏線がじつに巧妙。女形の衣裳の扱い方や小道具の仕掛けに関する何気ない説明など、この舞台設定におけるトリビア的なエピソードにしか聞こえないことが、すべて後半の大逆転劇のための緻密な伏線として機能する。物語の終盤、それまでバラバラに散らばっていたピースが、立作者・篠田金治(渡辺謙)を中心にして一気に一本の線へと繋がっていく瞬間は、まさに現代ミステリー傑作的なカタルシス。

「木挽町のあだ討ち」場面写真

「木挽町のあだ討ち」場面写真

人情味あふれる温かいストーリー

時代劇のお約束ごとである「権力vs庶民」の構図があることも見逃せない。武家社会の不条理、身分制度の底辺で生きる人々の心情をベースにした人情味あふれる温かいストーリーでありながらも、あくまで構成展開は現代的。トリックが秀逸であっても、その根底にある“人と人が助け合う情”というテーマが最後に胸に残る。
物語に登場する森田座の人々は過去の深い傷を抱えて生きているワケありの人々。吉原生まれの木戸芸者、武士の身分を捨てた立師など、誰かに救われて生きてきた彼らは、若くして過酷な運命を背負った菊之助の姿に、かつての自分を重ね合わせていたのだろう。劇中、衣裳方のほたるや小道具方の久蔵(正名僕蔵)らが、菊之助のためにそれぞれの技術を尽くすシーンがある。そこにあるのは、彼への同情だけではなく、社会の隅で生きる彼ら自身が抱いてきた疎外感と、それまでの人生で助けられなかった者たちへの後悔。そんなキャラクター1人ひとりの人間ドラマが折り重なることで、事件の目撃者だった彼らが、いつしか菊之助を守るためチームとして浮かび上がってくる。

「木挽町のあだ討ち」場面写真

「木挽町のあだ討ち」場面写真

そんなキャスト陣の豪華さも本作の魅力であり、日本映画界を代表する実力派による演技合戦なくしては成立しなかった。人間味のある温かさを崩さない絶妙な佇まいで、観客の目線となる加瀬総一郎を演じた柄本佑をはじめ、物語の冒頭で強烈な印象を残し、最後の最後までその姿が焼き付く伊納菊之助役の長尾謙杜、物語が動くところでどっしりと重厚な芝居を見せた篠田金治役の渡辺謙などなど。実力派によるアンサンブルだが、ほぼ全員が主役級のはたらきを魅せる。
復讐劇であり謎解きミステリーでもあるが、いわゆる「謎がとけて気持ちよかった」という感覚だけでなく「人間捨てたものじゃない」と思わせる本作。時代劇ファンのみならず見逃さないでほしい。

「木挽町のあだ討ち」相関図

「木挽町のあだ討ち」相関図

“ミステリーの女王”
名取裕子インタビュー

時代を超えて人の心に訴える

──今回は、数々のサスペンスドラマにご出演された名取さんに「木挽町のあだ討ち」の魅力を語っていただきます。まずは、率直な感想を聞かせてください。

登場人物1人ひとりの裏側にある物語、それぞれの心の痛みがとても深く描かれていますよね。時代劇という“衣”をまとっていますが、時代を超えて人の心に訴えるミステリーだと思いました。決まりごとの中で苦しんでいる庶民の心を、どのように救うのか……とても興味深かったです。現代においても、理屈やルールで裁ききれないことはたくさんありますから、物語が心に染みました。それもまた、とっても美しい映像で見せてくれるので、余計に心に響いて。登場人物たちの、“不幸な人を出さないための知恵”が観ていてとても気持ちがよかったです。実は歌舞伎の「木挽町のあだ討ち」(2025年・市川染五郎主演)も拝見しまして。歌舞伎と映画、それぞれの面白さがありました。

名取裕子

名取裕子

──名取さんは、監督の源孝志さんとドラマ「TRUE COLORS」「京都人の密かな愉しみ Rouge-継承-」などでタッグを組んできました。作品の中で源さんらしいと思った演出はありましたか?

源さんの作品には、歌舞伎や絵画、歴史など私の好きなものがたくさん登場するんです。ご自身も本当に知識が幅広くて、お話を伺うのがいつも楽しみで。クイズの王様みたいになんでもご存知なんですよ。飼われているワンちゃんもかわいくて(笑)、大好きな監督です。「木挽町のあだ討ち」では、仇討ちのシーンが印象的でした。真っ白な雪の中で、菊之助が赤い着物をパッと脱いで白装束姿になるのですが、絵画のように美しかった。源さんの色彩感覚が表れていると思いました。

──同作は、まさに今お話しいただいた菊之助による仇討ちシーンから幕を開け、徐々にその真相が明かされていきます。伏線回収も見どころの1つですが、どのようにご覧になりましたか?

ちりばめられた事件の伏線がクモの糸を手繰り寄せるように回収されていって、最後に「こういうことだったのか!」と腑に落ちる瞬間がとても気持ちよかったです。伏線回収のマジックにスッキリしましたし、後味のいい映画だと感じました。

“謎を解く意味”に向かっていく

──ミステリーとしては、(柄本佑演じる)加瀬総一郎が仇討ち事件の謎を暴いていく倒叙形式になっています。

総一郎のモデルが「刑事コロンボ」だと知って、なるほど!と思いました。総一郎は、森田座のメンバーの話を聞いて回り、やがて真実を突き止めていきます。柄本さんのお芝居がとっても飄々としていて、これまでのイメージとはまた違い、素敵でした。ついつい説明っぽくなってしまいそうなところを上手に謎解きして、さらに“その謎を解く意味”に向かっていく。ストーリーテラーとして、とても興味深かったです。

「木挽町のあだ討ち」場面写真

「木挽町のあだ討ち」場面写真

──芝居小屋・森田座のシーンでは、(渡辺謙演じる)立作者・篠田金治をはじめとする個性豊かなキャラクターが登場します。

木戸芸者、立師、衣裳方、小道具方、立作者……いろんな役割の方がいて。それぞれ痛みを抱える人たちが、技術と知恵を合わせて誰かのために奮闘する姿には、日本人の情の深さを感じました。みんなが互いを思いやる描写が心地よかったです。観客も、登場人物の誰かに「自分と似てる」と感じられる気がします。人のために何かをすることで、自分の心が救われることってありますよね。この映画では、目に見える得がなくても大事な人のために行動できるような、真面目に生きてきた人たちに光が当たっているので、とても心が温まるんです。これは、“源イズム”かもしれませんね。

名取裕子

名取裕子

身の回りで起きた、ある小さなミステリー

──これまでさまざまなミステリー作品で事件を解決してきた名取さんですが、本作の登場人物とバディを組むなら、誰を選びますか?

事件が解決できたのは、脚本に書いてあるからですよ(笑)。バディを組むなら……(イモトアヤコ演じる)おしゃべりなお与根かな。いっぱいしゃべって、有力な情報を聞き出してくれそうです。

──すぐに事件解決ですね!(笑) もし名取さんが、“時代劇”と聞くとつい敬遠してしまう若年層の方に本作をお薦めするとしたら、どのように伝えますか?

ファッションや美術を楽しむ見方もできると思います。最近では若い方々が、古い着物をとても上手にファッションに取り入れていますよね。時代劇になじみがない方でも、劇中の美しい様式美や歌舞伎の所作、色彩設計は見るだけで楽しいと思います。この映画を通して、日本の伝統文化の美しさを海外の方にも知っていただけたらうれしいです。

「木挽町のあだ討ち」場面写真

「木挽町のあだ討ち」場面写真

──ありがとうございます。では最後に、最近名取さんの身の回りで起こった“小さなミステリー”があれば教えてください。

上野の東京国立博物館から「名取さんのお財布が、麻布のお蕎麦屋さんの管理人さんのところにあります」という連絡があったことですかね(笑)。

──どういうことですか!?

お蕎麦屋さんでお財布を落としたんですけど、たまたま博物館のメンバーカードが入っていて。「このカードを拾った場合は博物館に連絡ください」と書いてあったから、拾った方が博物館に電話してくれたようなんです。そんなミステリーがありましたね。

名取裕子

名取裕子

プロフィール

名取裕子(ナトリユウコ)

1957年8月18日生まれ、神奈川県出身。1977年にドラマ「おゆき」で初主演を果たす。以降、映画やテレビを中心にさまざまな作品で活躍。主な出演作に、映画「序の舞」「吉原炎上」「釣りバカ日誌7」、ドラマ「法医学教室の事件ファイル」「京都地検の女」シリーズ、大河ドラマ「八代将軍 吉宗」、連続テレビ小説「あぐり」「あすか」などがある。

衣装協力:YACCOMARICARD / ABISTE

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